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最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)1206号 判決 1964年5月12日

上告人

末永正祐

上告人

兼頭光良

右両名訴訟代理人弁護士

沢田建男

被上告人

桑原ハナコ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人沢田建男の上告理由について。

所論は、原判決が被上告人(被控訴人)が訴外日本火災保険株式会社山口支部に対し金七一、六九〇の保険金額査定については異議なき旨の承諾書を提出したことは、被上告人の上告人ら(控訴人ら)に対する本件損害賠償請求権を放棄したものとは認められないことを非難するものである。

しかし自動車損害賠償保障法(以下自賠法と略称する)は自動車の運行によつて人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、一面自動車運送の健全な発達に資するとともに他面被害者の保護を図つていること並びに同法は自動車事故が生じた場合被害者側が加害者から損害賠償をうけ次に賠償した加害者が保険会社から保険金を受け取ることを原則とし、ただ被害者および加害者双方の利便のために補助的手段として、被害者側から保険会社に直接一定の範囲内における損害額の支払を請求し得ることとしている趣旨に鑑みるときは、自賠法三条又は民法七〇九条によつて保有者および運転者が被害者に対し損害賠償責任を負う場合に、被害者が保険会社に対しても自賠法一六条一項に基づく損害賠償請求権を有するときは、右両請求権は別個独立のものとして併存し、勿論被害者はこれがため二重に支払を受けることはないが、特別の事情のない限り、右保険会社から受けた支払額の内容と牴触しない範囲では加害者側に対し財産上又は精神上の損害賠償を請求し得るものと解するのを相当とする。従つて特別の事情の認められない本件では、被上告人の前記書面の提出により、加害者側に対する請求権をも放棄したものとは認められないとして、被上告人の上告人らに対する本件損害賠償請求を容認した原判決の判断は正当として肯認し得る。

所論は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実を前提とし、かつ独自の見解に立つて、原判決のなした正当な判断を非難するものであつて、採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官柏原語六 石坂修一 横田正俊 田中二郎)

上告理由<省略>

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